情報やモノが溢れ、商品やサービスの機能面だけで差別化がしづらくなった現代。競合も多く、業界を超えた競争が激しくなっています。
そんな時代だからこそ求められる「顧客起点マーケティング」についてご紹介します。
「顧客起点マーケティング」とは
顧客起点マーケティングとは、ざっくりいえば「たった一人の顧客の分析からプロダクトやコミュニケーションのアイデアを創出すること」です。デジタルな手段が発展し、様々なデータが取れる反面、顧客を数字として見なし、その背景にある心理や文脈を見落としがちです。
顧客起点マーケティングでは、大量の定量的データではなく、一人の顧客に対して徹底的に分析を行い、商品やサービスのファンになってもらうための施策につなげます。
この考え方自体は、スマートニュースを大きく成長させた立役者・西口氏が以下の本で提唱し、今では多くのマーケターが知るところでしょう。
9セグマップによる顧客起点マーケティング
顧客起点のマーケティングを実践していくうえで鍵となるフレームが「9セグマップ」による顧客分析です。9つのセグメントは、以下の3つの軸によって分類できます。
- プロダクトへの認知
- 購入経験/頻度
- 次回の利用意向
なぜ、このように分ける必要があるかといえば、どのセグメントに属しているかによって打ち手や訴求内容が変わってくるからです。また、顧客分析を行う際の視点も大きく変わってきます。
たとえば、「積極ロイヤル顧客」に対してであれば認知や購入に至ったきっかけ、そのプロダクトを使用し続けている理由などを聞くことで一般顧客や離反顧客に対するアプローチに活かすことができます。
一方、そもそも「未認知」の顧客に対して、そのプロダクトについて質問しても有効なインサイトは得られません。その場合、同じニーズに対して別のどのプロダクトに触れているのか、その理由などを探ります。
競合や市場分析にも効果的な9セグマップ
9セグマップは、自社の顧客に対してだけでなく、競合や市場全体を俯瞰的に分析するのにも活用できるフレームワークです。
9セグマップに時間軸を加えて定期的に分析することで、どの競合に顧客を奪われているかを推測できます。次回購入意向(ブランド選好)が低迷しているのであればブランディング起因、購入経験有り/頻度が低迷している場合は販促、というように分析に活かせます。
「プロダクトアイデア」と「コミュニケーションアイデア」
顧客起点マーケティングを推進するうえで、「プロダクトアイデア」と「コミュニケーションアイデア」分けて考えることが重要です。
9セグマップにより顧客をセグメントし、それぞれの顧客に対してインサイトを深堀りしていきますが、その目的はプロダクトの開発や改善です。そのための「アイデア」を考えるうえで、西口氏は「便益」と「独自性」の視点を挙げています。
CMを例に出すと、面白おかしく視聴者の印象に残るものの、商品について頭に入ってこないCMは「独自性」はあるものの商品の便益につながっていないCMとなります。商品についても、いくら「独自性」があっても明確な「便益」がなければ売れません。
「プロダクト」そのものと「コミュニケーション」に分けて「便益」と「独自性」の観点からアイデア創出につなげます。
「プロダクト」と「コミュニケーション」のバランス
売り手としては「良い物」を作っているつもりなので、売上が伸びない原因を「コミュニケーション」にあると考えがちです。しかし、顧客起点マーケティングによって顧客目線で「プロダクト」と向き合えば、「プロダクト」自体の改善につなげられます。
その結果、「独自性」も「便益」も備わったプロダクトを開発できれば、「コミュニケーション」としては「独自性」にこだわらず、「便益」をストレートに伝えるだけで十分な成果につながるでしょう。
スマートニュースの「顧客起点マーケティング」
最後に、具体例を1つご紹介します。
スマートニュースはいわゆる「ニュースアプリ」ですが、西口氏が入社した際にはすでにコモディティ化していたと言います。よって、ニュースアプリ自体の便益を訴求しても効果はないと考え、スマートニュースならではの「独自性」を探ります。
一人の顧客に対して深い分析を行った結果、特に外資系企業のビジネスパーソンが海外の記事を英語で読めることに対して価値を感じていることが分かります。そこで、「ニュースを読めるだけでなく、そのまま英語を勉強できる」ことを独自性としてコミュニケーションを展開し、ダウンロード数を大きく伸ばしました。
これは、いわゆる「定量調査」だけを行っていれば発見できなかったインサイトと言えるでしょう。
マーケティングを立体的に学ぶ
今回ご紹介した「顧客起点マーケティング」は、どちらかといえば顧客分析・インサイト発掘にフォーカスされた実践書です。「マーケティング」という莫大な分野を学ぶには、下記記事で取り上げたような本も併せて学ぶのがおすすめです。
これらの本に書かれている「共通点」と「相違点」を意識しながら理解を深めることで、マーケティングの知識が立体的かつ構造的に整理できます。