私が最近マーケティングについて勉強しているなかで、非常に印象に残っているのが「ジョブ理論」です。
よく「インサイトの発掘が重要」といわれますが、その「インサイト」をどう見つけていくか、これがなかなか難しいところだと感じています。そんななか、たまたま手に取った本の内容がまさに「目から鱗」でした。それが、こちらの本。
「ジョブ理論」とは
詳しい内容は本書に譲りますが、ジョブ理論とは、簡単にいえば顧客がなぜその商品やサービスを「雇用」するのか、これを明らかにしていくこと。「ジョブ」はその顧客が成し遂げたい成長や解決したい課題です。
「利用」ではなく、「雇用」であることがポイントです。意味合いとしては、その顧客の人生における何らかの課題を解決するために、生活の一部に「引き入れる」といったところです。
よく「相関」と「因果」を混同しないことが重要であるといわれます。
たとえば、あるサービスを利用している顧客データをもとに、「〇〇地域の30代男性が使用頻度が高い」などの分析を行い、マーケティング施策に反映することがありますが、これは「相関関係」を切り取っただけにすぎず、必ずしも望ましい成果には結び付きません。
データが簡単に取得できる時代になり、どうしても「相関」に流れがちですが、重要なのは「なぜ」そのサービスや商品を雇用したのか、ということ。こちらも例を挙げると、有名なミルクシェイクの事例。
ミルクシェイクはどのような「ジョブ」を解決するか
アメリカという車社会では、ミルクシェイクが人気があったりします。どのような層に人気で、どんな味が人気なのかを探り、試行錯誤するものの売上が伸びませんでした。
そこで、顧客にインタビューを行ったり、行動を観察したりしたところ、あることに気づきます。それは、「通勤の長いドライブのお供としてミルクシェイクを雇用している」という事実。
ミルクシェイクは味が濃く一気に飲み干すことが難しい飲み物で、腹持ちがよく長いドライブ時間のお供として最適でした。朝からチョコのような甘いをお菓子を口にする罪悪感もなくジョブを解決してくれます。
このことから、
- (朝の時間帯は)会計や商品受け取りを簡略化し、スムーズな購入を実現
- 味を濃くしてより長い時間ミルクシェイクを楽しめるようにする
- 車のカップホルダーに合う形状の入れ物に変更
などの施策を展開し、売上が爆発的に伸びたとのことです。
改めて、「ジョブ」とは
「ジョブ理論」の根幹をなす「ジョブ」は、「特定の状況で顧客が成し遂げたい進歩」と定義されています。ジョブを分解すると、
- 特定の状況
- 顧客
- 成し遂げたい進歩
の3つの要素があります。先ほどのミルクシェイクの例でいえば、
- 特定の状況:長時間の車通勤で退屈な状況
- 顧客:朝時間に余裕のないビジネスマン
- 成し遂げたい進歩:退屈なドライブを紛らわす、朝食を効率良く摂りたい
のようにジョブを整理できます。
なぜ、ジョブ理論が重要か?
昔であれば、「なぜ」購入するのかよりも「誰が」購入するかの方が重視されていました。というのも、ある程度属性が近ければ同じような価値観を持っている可能性が高く、多くの消費者にアプローチする効率も含め、「誰が」に焦点を当てる傾向がありました。
しかし、インターネット時代で情報が溢れるなか、同じ20代男性であっても価値観が全然異なってきています。そこで、マス的な考えよりも「ジョブ」のレンズを通じて「なぜ」そのプロダクトを雇用するのかを明確にする流れが生まれています。
別の言葉でいえば「UX」に近い感覚でしょうか。
どのように「ジョブ」を見つける?ジョブ理論の実践
ミルクシェイクの例から、顧客の「ジョブ」を発見できれば、何をすべきかがクリアになっていきます。しかし、その「ジョブの発見」が難易度が高く感じるかもしれません。
結論からいえば、「ジョブ」を見つけるための唯一絶対の方程式はありません。本書では、その道しるべとなるような切り口を紹介しています。
- 身近な生活に潜むジョブはなにか?
- 「無消費」で済まされているジョブはないか?
- 間に合わせの対策で済ませていないか?
- できれば避けたいことはなにか?
- 意外な使われ方はしていないか?
の5つの問いです。
他の切り口や詳細は本書に譲りますが、たとえば「意外な使われ方」についてはキンコン西野さんの言葉で「意味をずらす」ということとも通じますが、絵本の世界観を伝える「個展」における「絵本」の販売が該当します。
個展での体験を提供し、旅行と同じように「お土産」がほしくなる層が一定数存在します。そのお土産として「絵本」を販売し、家で「インテリア」としても機能するようなデザインにしています。
絵本市場は非常に小さいなかで、「意外な使われ方」に着目した施策といえます。
ジョブを見つけるのに役立つUX調査
「ジョブ」と「UX」は非常に関連が強い概念だと思っています。両方とも、商品・プロダクトを購入する瞬間だけでなく、使用前から使用中の体験、使用後までをトータルで捉えています。
その意味で、近年よく耳にする「UXリサーチ」は、まさにジョブを見つけるための手段を位置づけることもできます。
ミルクシェイクのジョブの例でいえば、顧客の行動を「観察」し、なぜミルクシェイクを雇用するのかを明らかにしました。
ユーザーインタビューといったUXリサーチの手法についても理解を深めると、「ジョブハンティング」に役立てることができるでしょう。
UXを学ぶのにおすすめの本は以下にまとめています。
【UX/UIデザイン】初心者向けおすすめ本 8選|2021年最新版 – スポビズ研究所
ジョブ理論の実践を解説した『実践「ジョブ理論」』
冒頭で紹介した本は、具体例もありわかりやすい本ではありますが、理論的な側面が大きなウエイトを占めます。マーケターやビジネスマンとして日々の仕事に落とし込むには、『実践「ジョブ理論」』もおすすめです。
ジョブを構成する各要素の整理の仕方や、それらを踏まえたフレームワークも提示されています。特にマーケターにとって、すぐにジョブ理論の実践に落とし込めるようになっています。
企業として顧客の「ジョブ」に着目する重要性:ジョブ理論に適応した組織づくり
何か新しいサービスを展開する際、利用者としての不便な体験をもとにサービスを設計することが多いのはご存知の通りでしょう。ネットフリックスが立ち上がったストーリーは非常に有名ですよね。
しかし、ひとたびサービスが軌道に乗ると、どうしても「数字」がつきまとい、顧客のジョブと向き合う優先度が低くなってしまいます。これを避けるには、やはり組織(システム)としてジョブ理論と向き合いことが大切です。本書の後半ではこの内容についても解説されています。
ジョブ理論を活用し、イノベーションの成功確率を高める
ジョブ理論は「因果関係」に着目します。よって、ジョブ理論の考え方を突き詰めることで、目論んでいるイノベーションを成功させる確率を高めることも可能とされています。
少々厚い本ではありますが、マーケティングに非常に役立つ内容だと思いますので、一度読んでみてみることをおすすめします!
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