近年では,市民ランナー人口の増加によって朝練習を行うランナーも多くなってきました.
朝練習をしていないトップアスリートを探す方が難しいかもしれません.
しかし,時間が限られている市民ランナーなどは,通勤前,通学前などに朝練習を行っていることでしょう.そして,朝に弱いランナーは起きられないために朝練習を行うことができないかもしれません.
今回は科学的な知見から朝練習のトレーニング効果について解説していきます.(引用1)
朝練習にはたくさんの種類がある
朝練習とひとくくりにしても色々種類はあります.
- ジョギング(時間,距離による変動)
- 動きづくり
- 筋力トレーニング
目的によってはこれを使い分けることも重要です.
とある強豪高校では,朝練習で動きづくりやプライオメトリクス的な筋トレだけの曜日もあるそうです.
とにかく,決まったことをやるだけの朝練習では駄目ということです.
毎日60分ジョグと決めていると,考える必要はありませんが,マンネリが進みます.
ただ,毎日同じことをしていると,走り出してすぐにその日の調子がわかるという利点もありますが,やはり強くなるには,こういった目的に応じた朝練習を使い分けることが重要ということでしょう.
日本と海外のトップアスリートの朝練習の違い
マラソンをはじめ,長距離から中距離には“走り込み”によって持久力を高めることが重要なのは,今や周知の事実です.
そのため,1日に2回トレーニングを行う選手も増えてきました.日中のトレーニングに加えて,もう一度練習するために選ばれたのが,”早朝”です.
日本の朝練習は練習量の増加が目的【補助的な朝練習】
日本の朝練習は基本的に軽度のジョグなどがメインになっています.
学生はもちろん,市民ランナーでも朝から負荷の高いトレーニングをしているランナーは珍しいです.
筆者も高校時代は40分(4’20/km)のジョグでした.疲労が溜まりに溜まっている日は少ししんどかったですが,それ以外はかなり楽な練習でした.
海外の朝練習は一日のメイン練習.午後は補助的な練習【グリコーゲン貯蔵の増加】
海外,特にマラソン界を席巻しているアフリカ勢は朝練習が主練習となっています.それも朝食前に.
かの有名な”ハイレ・ゲブレセラシエ”も朝食前の早朝に主練習を行い,午後は軽度のジョギングなどだったようです.
早朝に強度の高いインターバル練習を行ったり,2時間前後のロングジョグを行っていたと記録されています.
そんなハードな練習で得られることが,“グリコーゲン貯蔵値の増加”です.
グリコーゲンとは炭水化物がエネルギー源として使われるために分解された姿だと思ってもらって構いません.それが,肝臓と筋肉の中に貯蔵されているのですが,肝臓に約100g,筋肉に400gが蓄えられています.
グリコーゲンは1gで4kcalになるので,それぞれ400kcalと1600kcalが貯蔵されている計算になります.
ただし,素早くエネルギーに変換されるのは,筋肉中のグリコーゲンのみなので,実質ランニングの最中に使用されやすいエネルギーは1600kcalの蓄えがあるということになります.
マラソンを完走するには2500kcal~3000kcal必要と言われています.(一般値)
なので,マラソン完走には体内の蓄えだけでは足りません.そのためにマラソン中にエネルギー補給をする必要があるのです.
この貯蔵量は最大値がこの程度で,増加するにはトレーニングを行うしかありません.
筋肉中のグリコーゲン貯蔵量が増加するメカニズム
先ほど,アフリカ勢は朝練習が主練習だと述べましたが,それがグリコーゲン貯蔵量の増加に直結します.
起床後,朝食を摂るまでは血糖値が低く,胃の中にエネルギーになるものがなく,筋肉中のグリコーゲンは減少しています.
その状態で強度の高い練習,長い練習を行うことで,筋肉中のグリコーゲンが枯渇していきます.
枯渇すると,グリコーゲンを蓄えている場所が,『グリコーゲンの蓄えがこれだけでは足りない』と思い,グリコーゲンを貯蔵できる場所を増やします.
そうして,ランニングに適したエネルギーの貯蔵地ができあがり,より少ないエネルギーで速く長く走れるようなエネルギー効率とサイクルができあがるのです.
グリコーゲンの貯蔵量が多いほど長距離も中距離も速くなるのは科学的に証明されています.
多ければ多いほど,一度の筋肉の出力に対して,より多いグリコーゲンを注げるからです.
朝の低めの体温はランニングに有利
持久的運動の制限を設ける要因として,体温が挙げられます.
体温が臨界温度の40℃に達したとき,抑制がかかり,動きが悪くなります.
つまり,低めの体温から走り始めることによって40℃に達するまでの時間を延長できるため,時間的には運動パフォーマンスを向上させることができます.
しかし,体温の低いまま強度の高いトレーニングを始めると間違いなく怪我をしてしまいます.
ここで言う”有利”とは強度の低い,長めのトレーニングを指しています.
低グリコーゲンでのトレーニング効果
低グリコーゲンでのトレーニングと高グリコーゲンでのトレーニングを行い,その後比較するという実験が行われていたことがあるのですが,その結果,
グリコーゲンの貯蔵量(貯蔵限度と考えてよいでしょう)は,低グリコーゲン状態でトレーニングを行った方が,高グリコーゲン状態でトレーニングを行った方よりも,増加していました.
つまり,低グリコーゲン状態でトレーニングを行うと,グリコーゲンの貯蔵が増加するということです.
低グリコーゲン状態に適しているのが,朝食を摂る前の”早朝”【効果的なトレーニング】
強く速くなるためには,朝の低グリコーゲン状態を利用するのが,効果的ということです.
ただし,ポイントなのが『朝食前』という点です.
グリコーゲン量を増やすことはトレラン・ウルトラレースに活きてくる
長時間スポーツのトレランではエネルギー補給などが重要視されますが,筆者的には,グリコーゲンの貯蔵量を増やすことも活きてくると思います.
言ってしまえば,体内に貯蔵できるエネルギー量,すなわち”HP”を増やすことと同義です.
トレイルランナーこそ,早朝に長めにジョグをしたり,強度の高いトレーニングをするべきです.山に入るのもありでしょう.
まとめ【朝練習/ランニングに効果的な練習方法】
- 朝食前に強度の高い練習をする
- 朝食前に長めのジョグなどを行う
- 目的に合った朝練習をする(ルーティン化しない)
- グリコーゲンの貯蔵量を増やす
朝練習にメイン練習をするメリットがわかっていただけたでしょうか.