今週も1週間おつかれさまでした!
本日は、スポーツビジネスの根幹を考えるうえで欠かせないリーグ構造について、プロ野球とJリーグを例にその違いとそれぞれのメリット/デメリットを考えてみたいと思います。
プロ野球とJリーグの構造的な違いとは?昇格/降格の有無?
この質問に対してみなさんならどう考えますか?普段から試合を観戦される方でしたらチーム数の違いとか、順位の決め方等々・・・思う浮かぶ方もいらっしゃると思います。
では、もう少し大きな視点で見てみましょう。たとえば、自分でチームを立ち上げてリーグに参戦したい、と仮に思ったとき、プロ野球に参戦できるでしょうか?Jリーグには参戦できるのでしょうか?
実は、Jリーグでしたら「容易に参戦可能」です。というのは、Jリーグ(正確にはJ1)をトップとするエコシステムに加盟することは語弊を恐れずにいえばすぐにでもできます。地域リーグからスタートしてJまで登りつめるのは、戦力的にも、ライセンス制度という意味でも大変ですが、地域リーグからスタートしてどんどん勝ち上がっていけばJリーグ入りは目指せます。
つまり、何が言いたいかというと、Jリーグには昇降格があり、プロ野球には昇降格がありません。
これをスポーツ業界では「開放型」と「閉鎖型」というそうです。Jリーグは開放型で簡単に参戦できるけど、勝敗に応じて昇降格がある一方、プロ野球はある意味12球団の閉ざされた世界のなかで、参入障壁が非常に高いという違いがあります。
プレイヤー/チーム目線ですと、昇降格の有無が決定的に違うということになりますが、これがビジネス面でどのような影響をもたらすのでしょうか?
リーグ構造の違いがビジネスにもたらす影響
一言でいうと「長期的に戦略をたてやすいか否か」になると考えています。どちらが長期的に戦略を立てやすいでしょうか?
答えは明白、閉鎖型のプロ野球ですね。たとえば、皆さんがスポンサーの立場だったら、来シーズン下部リーグに降格してしまうかもしれないJリーグのチームに対して、5年や10年の契約を結ぶことができるでしょうか?降格してしまえば、集客や露出等をはじめスポンサーメリットはだいぶ薄れてしまいますよね。
プロ野球の場合、このような「不確実性」が低いです。そのため、スポンサーしろ、パートナーシップにしろ、ネーミングライツにせよ、長期契約が結びやすいです。長期契約が結びやすいと、何がメリットなのでしょうか?
球団としては、その資金をもとに投資計画を立てることができます。それがチーム側の選手補強かもしれませんし、事業面で例えばスタジアム改修かもしれませんが、それらの投資計画を長期的な視点で立てることができるのでしょう。
少しアメリカに目を向けてみましょう。4大スポーツと言われるMLB・NFL・NBA・NHLは全て「閉鎖型」です。そして、スポンサー/パートナーシップともに10年や20年スパンでの契約が当たり前の世界です。
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では、「開放型」は一概に良くないのか
ここまで結果的に「閉鎖型」のメリットばかり書いてきましたが、「開放型」にももちろんメリットはあります。昇降格があるため、同じレベルのチームが同リーグに集まりやすくなります。それによって均衡した試合が多くなるので、1試合1試合が盛り上がり、事業面でもプラスになる部分も多いはずです。
逆の例を見てみましょう。東京六大学野球です。東大を悪くいうつもりは全くありませんが、残念ながら六大学野球は「閉鎖型」のデメリットを露呈してしまっています。時には接戦、あるいは勝利することもありますが、大半の試合は大差で負けてしまっており、それでもリーグに居続けることができます。伝統が伝統なので、この仕組みが変わることはないと思いますが、新たにリーグを立ち上げる際、この辺りの設計をしっかりと詰めることが肝要になります。
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リーグガバナンスにみるプロ野球とJリーグの違い
「リーグ構造(システム)」の点でプロ野球とJリーグが異なる制度であることを解説しましたが、「リーグガバナンス」という点でもプロ野球とJリーグは大きく異なります。
簡単にいうと、プロ野球は「ボトムアップ型」、Jリーグは「トップダウン型」といえます。
もう少し具体的に説明するにあたり、「放映権」を例にとります。まず、Jリーグではリーグで一括して放映権契約を結び、その売上を各クラブに分配します。DAZNと長期にわたる巨額な契約を結び、各クラブの収益基盤が強化されたことは記憶に新しいでしょう。
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一方、プロ野球は基本的に各球団がバラバラに放映権を扱っています。各球団の取り組みのなかで、結果としてパ・リーグに関しては6球団の権利をまとめて管理する「パシフィックリーグマーケティング」が立ち上がり、今日の「パ・リーグTV」が存在します。
また、Jリーグでは「クラブライセンス制」を採用しており、Jリーグのクラブとして認定されるために必要なさまざまな規定があります。経営指標などの基準も設けられていますが、プロ野球ではこのような基準は基本的に存在しません。今は違いますが、昔は赤字経営が当たり前であったのも、このようなガバナンスの違いが影響しているといえるでしょう。
このように、リーグ構造だけでなく、リーグガバナンスの観点でもプロ野球とJリーグには違いがあります。
選手目線で見るプロ野球とJリーグの比較
あくまで選手目線での話になりますが、Youtube上でプロ野球とJリーグそれぞれの立場から違いを語っている動画がありますので、参考までに覗いてみてください。
プロ野球とJリーグに収入格差はあるか?
プロ野球は、選手会の発表によると2019年の支配下登録選手の平均年俸は約4,000万円、一方JリーグのなかでもJ1の選手の平均年俸は約3,400万円だそうです。ここまでご紹介してきたように、プロ野球とJリーグではリーグ構造が異なるため、一概には比較できませんが、選手目線ではあまり年俸の差はないように思えます。
ちなみに、プロ野球とJリーグの各球団/クラブ単位では、そこそこの収入格差があります。プロ野球は経営情報をあまりオープンにしていませんが、差はあれど年間100億円から200億円程度の売上があります。一方、Jリーグの公開資料によると、2019年度のJ1・18クラブの平均売上が50億円程度です。
クラブ数が多いとはいえ、プロ野球とJリーグではまだまだ収入格差があるといえます。ただ、Jリーグは足並み揃えて経営情報を公開しているのは特筆に値します。
まとめ
- 開放型:リーグ参入が容易で、リーグ内の均衡を図りやすい。一方で、ビジネス的には長期的な視点を持ちづらい
- 閉鎖型:リーグ参入障壁が高く、リーグ内でばらつきが出やすい。ビジネス面では長期的な視点を持ちやすい。
今回はプロ野球とJリーグを題材に「開放型」と「閉鎖型」について書きましたが、それぞれにメリット/デメリットがあるのでそれを理解したうえで、リーグ設計をすることが必要になります。
こういった視点で、色々なリーグを見てみると面白いかもしれません。
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